日本の金融市場には自主性がないという議論は意味をなさない
アメリカがくしゃみをすれば日本が風邪を引くなんていわれることがある。ようはダウが上がれば日本も日経もあがる、ダウが下げれば日経も下がる、ということのたとえたもので、そういわれてしまうほど日本の株式市場はアメリカNY市場と強く連動している。理由は単純で、NYで株価が上がれば海外勢が東京でも買う、反対にNYで下がれば海外勢が東京でも売るから。
だけどもね、それをして「自主性がない」といってしまうのはどうかと思うのですよ。ましてやロイターにそんな感情だけの記事を載せてはいかんだろう。
日本の金融市場、きょうも自主性なし
日本の金融市場で自ら相場を形成しようとする自主性がリーマンショック以降、一段と弱まっている。このままではアジアでの地位低下に歯止めがかからず、日本の市場自体が存亡の危機を迎えるのではないか。欧州経済への懸念から米国株やドルを選好するケースもあるため、海外発の手掛かりが多くなりがちだ。だからといって「外国人がディフェンシブを買うからこちらもディフェンシブを買う。まるで鏡を見ているようにね」(株式トレーダー)というのは、どうなのか。
日本株と海外勢の関係は
日本株が海外勢の売買動向でほぼ決まってしまうのは事実で、試しに寄りつき前外資系動向*1と日経を約1年分重ねてみたのが下のグラフ。赤線が日経平均(右軸)で黄色棒が寄りつき前外資系動向(左軸)。Google Chartの性格上1枚では処理してくれないらしく、グラフは2枚。*2画像が縦並びになってるのは修正中。
海外勢が売ってると日経が下げて、買うと上がるよねっていう雰囲気がそれなりに出てる。あくまで雰囲気だけど。
何故海外勢と日本株が連動するのか
自主性がないといってしまう背後には、自主性を出す、つまり本邦勢が買い向かえば日経が上がるだろうという思惑が見え隠れする。それ、間違いだすよ。
なんで違うかというのは投資主体別売買動向と呼ばれる売買代金の変化を見てみればわかる。金額ベースのデータは元データを見ていただくとして(→コチラ)、売買代金の割合をみると上でグラフにした2008年2月からの期間ではこんな感じ。
期間 |
外国人 |
生損保 |
銀行 |
信託銀行 |
その他金融 |
事業法人 |
その他法人 |
投信 |
個人 |
合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
09年2月 |
38% |
0% |
0% |
38% |
2% |
4% |
1% |
3% |
13% |
100% |
09年1月 |
37% |
1% |
0% |
42% |
1% |
1% |
2% |
4% |
13% |
100% |
08年12月 |
33% |
2% |
0% |
42% |
0% |
4% |
2% |
3% |
14% |
100% |
08年11月 |
36% |
2% |
0% |
41% |
0% |
8% |
1% |
0% |
12% |
100% |
08年10月 |
30% |
1% |
0% |
33% |
0% |
6% |
1% |
1% |
28% |
100% |
08年9月 |
51% |
8% |
4% |
6% |
1% |
8% |
1% |
2% |
19% |
100% |
08年8月 |
6% |
11% |
2% |
8% |
1% |
11% |
1% |
10% |
49% |
100% |
08年7月 |
62% |
4% |
0% |
20% |
0% |
3% |
9% |
0% |
1% |
100% |
08年6月 |
27% |
3% |
1% |
16% |
4% |
8% |
1% |
5% |
35% |
100% |
08年5月 |
62% |
5% |
1% |
4% |
3% |
5% |
2% |
1% |
18% |
100% |
08年4月 |
39% |
1% |
0% |
13% |
1% |
1% |
1% |
2% |
41% |
100% |
08年3月 |
57% |
1% |
0% |
21% |
1% |
6% |
2% |
1% |
11% |
100% |
08年2月 |
0% |
5% |
1% |
6% |
1% |
42% |
5% |
12% |
28% |
100% |
投信だ生損保だなんてのは実は全然動いてなくて、二桁もってるプレイヤーは外国人と信託銀行のふたつだけ。信託銀行ていうのはつまり年金で、日本の株式市場の2強のひとつである年金の運用方針はリバランス、つまり下がったら買う、上がったら売るを基本にしている。
ざっくりいってしまえば、海外勢が動いてそれを年金が受けるというキャッチボールが日本の市場の構造だと言える。いたってシンプル。
こうした構造をもつ株式市場で、例えば証券会社が「自主性をもって」海外勢の十数分の一しかない資金で買い向かいあるいは売り向かったとして、株価をあるべき水準にもっていくことができますか?需給関係で値段が決まるのが市場原理だったのでは?
日本の市場が海外勢に左右されるのは、自主性がないからではなくて運用する資金の規模のケタが違うからじゃねーの。
日本の市場を本邦勢でコントロールしたいというのであれば
「自主性がない」といった問は単なる精神論でしかないので、
なぜ日本の金融機関は運用資金がもっと大きくならないのか
といのがたてるべき問になる。これならその理由とか対策とかいくつか仮説も出てくるじゃん。